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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

無名著者のための販売戦略

JPS出版局のオフィシャルホームページに載せるために、『知っておきたい本作りの知識』をまとめています。ちょうど今、まとめているのが出版販売の話です。まだまだ加筆訂正しますが、執筆途中の文章を掲載します。

無名著者のための販売戦略(知っておきたい本の売り方)


本屋さんに並べるだけでは、本は売れない

■ 昨年だけでも77,000点の新刊が出た

出版物の問屋さん、出版取次に持ち込まれた本だけでも一年間で77,000点に及びます。

私家本と呼ばれる一般に流通しない本も合わせると10万点を超える新刊が出ています。

出版取次に持ち込まれる本の大半は、売上で採算を取ることにした商業出版の本です。

知名度ある著者による、流行を読み、読者傾向を読んで企画された本がほとんどです。

出版社の先行投資による本ですから出版社も必死です。とことん採算性を追求します。


■ 思い入れだけで売れるほど甘くない

本作りに賭ける著者の情熱は大切です。それなしに読者に感動を与えられません。

しかしそれは必要条件であって、充分条件にはほど遠いのです。

先ずは読者に手に取ってもらうこと。これなしには読者の選択以前の問題です。

読者ニーズに合っているか。読者にとって興味のない本は手に取ろうともしません。

その存在さえも気づかれない、手にも取られない本が売れるわけがありません。


■ 著者の知名度が売れる本の最大の要素

読み進まないと、あるいは読み終わらないと、その本の良し悪しは分かりません。

著者や編集者が、これはいい本だと思っても、読者に伝わらないことが多いのです。

この人の書いた本なら読んでみたい。この著者なら期待を裏切らないだろう。

多くの読者の購買理由です。だから残念ながら知名度のない著者の本は売れないのです。

工夫して、奇をてらったタイトルやカバーデザインにしたとしても、売れないのです。


本屋さんに並べる以前の問題です

■ ファンの数しか、本は売れない

著者の周りにどれだけのファンがいるか。出版取次や本屋さんの仕入れ基準です。

もちろんタイムリーな企画ならば、試しに並べてみようって気にもなります。

ただその場合でも、一週間ほど様子を見て、売れないようなら直ぐに返品です。

過去の実績から、この著者ならば売れると思う本は、しばらく置きます。


■ 採算ベースが基本です

出版取次も、本屋さんも、ビジネスとして商いを続けています。

本の製作費を著者や出版社が負担しようと、店舗コストや流通コストが掛かります。

出版関連事業に関る人も、本に対する思い入れは強くても、ビジネスはビジネスです。

機会原価と言って、他の売れる本の販売機会を逃してまで協力してはくれません。


■ 一人でも多くの読者に読んでもらうには

初めて本を出す人には、本屋さんに並べる以前の問題があると思います。

著者に、どの程度の交友関係があるかです。どれだけ社会と関っているかです。

誰もが最初は知名度もなく、ファンがいないのは当然です。

それでも、せめて100人ぐらいの人に直接買ってもらえるぐらいの広がりが必要です。


■ 口コミほど強い宣伝はない

求められるものは、大々的に宣伝しなくとも、読者が捜し求めて、来てくれます。

本屋さんの店頭になくとも、ネット書店や本屋さんに注文してくれます。

やはり、売れるものは売れるし、売れないものは売れないのが現実です。

その本に感動した人が100人いれば1,000冊ぐらいアッと言う間に売れてしまいます。


とはいえ出版流通ルートは

■ 同じ本を買う人はいない

どんなに感動したとしても、同じ本を買い求める人はいないでしょう。

読者の数しか本は売れません。

図書館や古本屋の存在を考えれば、読者の数より少ないのです。

さらに本はどれほど価値があろうと宝石や車ほど高くありません。

いろいろと問題を抱えているとはいえ出版流通ルートは完成形に近い販路なのです。

直接売ろうとすると、ネットが普及した現在でも流通経費で採算割れが現実です。


■ それほど本は安いのです

諸外国の本の値段を対物価水準で比べた場合、日本は極端に安いのです。

伝統的な識字率の高さ、近代化後の再販制度と委託制度が普及を助けてきました。

大量生産大量消費の時代になり、出版社の寡占化や印刷機械の大型化の影響もあります。

世間的な通り相場の本の値段の安さ、大量部数の製作を前提にした印刷システム。

小部数の自費出版本にとって、厳しい環境にあることは否めません。


■ 出版流通ルートに乗せるためには

ここまで販路の整った流通システムがある以上、無視しては本を普及出来ません。

会ったこともない人にまで読んでもらうには、既存システムの利用が不可欠です。

そのために、出版取次と取引のある出版社に発売元になってもらうことになります。

これはアマゾンやビーケイワン、セブンアンドワイなどのネット書店でも同じです。

JPS出版局でも手配できますが、自分の本の傾向に合った出版社がいいでしょう。


新刊配本と書店からの注文の仕組み

■ 客注

読者 ⇒ 書店(ネット書店含む)⇒ 出版取次 ⇒ 発売元出版社

お客さんから本屋さんに注文があった場合の注文書の流れです。

ちょうどこの逆ルートを経由して、本が読者の手元に届けられます。

この場合の注文を、業界では「客注」と呼んでいます。

後で書きますが、これからの出版販売は「客注」の多寡が天国と地獄の分かれ目です。


■ 新刊委託配本

新刊発行時に発売出版社の要請で、出版取次が一定部数をまとめて仕入れることです。

出版取次は類書の過去のデータに基づき契約している本屋さんへと本を送り込みます。

扱いは委託ですから新刊委託期間(概ね6ヵ月)を経た後で売れた分を清算します。

他に「長期委託」「延勘」「常備委託」など様々な形で本屋さんへと送り込まれます。


■ 本屋さんの「見計らい注文」

本屋さんサイドで、この本ならば売れるだろうと思った本を仕入れて展示します。

注文の流れは、書店 ⇒ 出版取次 ⇒ 発売元出版社となります。

出版社の担当者や著者が本屋さんを回って販売促進(受注)活動をした場合と同じです。

販売促進活動の基本は、本屋さんから「見計らい注文」を出してもらうことです。

これは当然「見計らい」ですから、売れ残れば返品となって返ってきます。


意外と複雑な売上計算と諸経費計算

■ 掛け率・歩戻し等々

出版社ごと取次ごとに取引条件は様々です。販売に伴う諸経費も一律ではありません。

おまけに商慣習による歩戻しや条件払い、支払保留などもあります。

他にも委託、注文方法には、常備・長期・延勘などという扱いもあります。

それなりにキッチリとは運用されていますが、説明するとなると大変な労力が必要です。

個人(自主制作)出版を扱うJPS出版局では簡素化して著者に支払っています。

⇒ 『出版販売についての確認書(案)』を参照してみてください。


■ 無視出来ない物流経費と返品率

出版に関らず、物を販売するときには多額の販売経費が掛かります。

市場に流れる様々な商品のメーカー出し値は売り値の3分の1以下でしょう。

特に出版流通は委託が基本になっているので、返品を伴います。

著名な著者によるプロが手掛ける商業出版でも、返品率は3割を超えています。

返品された本については、当然のように物流経費だけが出て行くことになります。


■ 費用対効果を考えることが大切です

本屋さんへのプロモーション(販売促進)、新聞等の広告宣伝などなど。

確かに方法は幾らでもあります。問題は、その費用対効果です。

著名な著者の本などは、本が出たと告知するだけで注文が舞い込みます。

無名だと著者の紹介から本の説明まで、その手間たるや10倍どころではありません。

新聞などの広告も10倍のスペースを使っても、著名な著者には対抗出来ないでしょう。


無名であるがゆえに求められる本の販売戦略

■ 販売戦略の基本

戦と同じです。相手の力が大きいときは局地戦に持ち込みます。

自分の一番有利な場所へと、戦場を絞り込むことが特に大切です。

読者対象を絞り込み、重点地域を絞り込み、分野を絞り込みます。

その絞り込んだ的に向かって集中攻撃です。

宣伝も販売促進も、先ずは一点突破です。


■ 闇夜に鉄砲では中らない

「誰か買ってくれるだろう」では、結局誰も買ってくれません。

誰も読んでくれません。

目に見える読者対象、実感できる読者対象がいるのかいないのか。

本作り以前の問題です。相手が見えてもいないのに働きかけることは出来ません。

売り込むことも出来ません。

明確に読者を意識出来たとき、自ずから、その販売戦略と戦術は決まります。

読者対象を絞り込む手段と方法は『本にする原稿の書き方、まとめ方』にまとめます。


■ せめて100人は、間違いなく買ってくれる人を

本が出来上がってから働きかけるのが販売促進です。

ただしそれだけでは、余りにも遅きに失します。

ウォーミングアップもせずにスタートラインに着くようなものです。

本が出れば買ってくれる人を、せめて100人は確実に得ることが出発点です。

「本が出さえすれば大丈夫。素晴らしい本だから」では、誰も振り向きません。

買わないと、そして読み終えないと素晴らしい本かどうか分からないのです。

読んでもらう以前の問題として買ってもらうという高いハードルが聳えています。


売れている本の、最後の決め手は口コミ

■ 本を出すとき、本が出てから

出版前に興味を持ってくれる人を最大限作ったとします。

出来れば数百人欲しいところです。

その上で、発行した瞬間での集中力が命運を分けます。

新刊委託で本屋さんに搬入したとします。契約では6ヶ月間の委託契約です。

現実には、もし売れないなら、1ヶ月もしないうちに返品になります。

本屋さんも、売れそうもない本を貴重なスペースに置く余裕はありません。

言うまでもなく、初速が大切です。直ぐに売れた本は本屋さんも補充します。

たとえ発行時期をずらしても、最初から全力疾走できる体制を用意します。


■ どこまで口コミを利用できるか

ネット書店が急成長しています。

一方で、携帯文庫などで人気の出た本が売れています。

実は、このどちらも口コミの延長線上にあります。ネットを通じた口コミです。

同時に、この二つの共通点は「客注(お客さんの注文)」が多いという側面です。

平積みや面陳と呼ぶ本屋さんでの露出度の高い売り方が今までは販売の基本でした。

もちろん最後は店頭勝負に変わりがないのですが、それだけでは売れない時代です。

口コミで広がった人気商品は、本屋さんも平積みします。

売れるから、売れているから平積みするのです。

平積みしたから売れたわけではありません。


■ 著者の働きかけ抜きに口コミは広がらない

出版社がいくら宣伝をしても、単なる売込みとしか受け取られません。

著者の情熱、著者の思い、著者への親しみ。これ抜きに口コミは広がりません。

そして著者の周りに共感する人や共鳴する人の輪が出来たとき、一気に爆発します。

友だちの言葉、知り合いの言葉は、それほどまでに信頼されるのです。

100回の新聞広告よりも、友人に勧められたほうがインパクトは大きいのです。

情報過多の時代だからこそ、血肉の通った言葉の方が100万倍の力を持ちます。


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